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仙台高等裁判所 昭和29年(う)325号 判決 1954年7月29日

控訴人 被告人 三浦武誉

弁護人 広野伸雄

検察官 屋代春雄

主文

原判決を破棄する。

本件を青森地方裁判所八戸支部に差し戻す。

理由

弁護人広野伸雄の陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人名義の控訴趣意書の記載と同じであるから、これを引用する。

控訴趣意第一について。

按ずるに、原判決の主文第一項は「被告人を一年以上一年六月以下に処する」とのみあつて、刑の種類を示していないことはまことに所論のとおりである。有罪判決にはその主文において宣告刑が示されておらねばならず、宣告刑は、自由刑の場合には、刑の種類と刑期とによつて確定されるもので、そのいずれか一方を欠くときは、宣告刑の表示としてその効力を生ずるに由なきものであること勿論である。然らば原判決には有罪判決に必要な有効な宣告刑の宣示をしなかつた違法があるものである。尤も、原判決の法令の適用欄を一読すると、原判決はその判示した窃盗の事実に刑法第二三五条少年法第五二条を適用した上「被告人を懲役一年以上一年六月以下に処する」旨説示しているので、その主文が前記のような表現になつているのは「被告人を懲役一年以上一年六月以下に処する」とすべきであつたのに「懲役」の二字を脱漏したことの誤りであつたことは、これを推認し得ないわけではないが、民訴法第一九四条の如き規定を設けず、判決の取消変更はすべて上訴による建前をとつている現行刑訴法の下においては、判決の趣旨に関係のない誤字脱字等判決の効力に影響のない誤謬につき、判決裁判所がこれを更正し、又上級裁判所がその誤謬を補正して判決を解釈する等の措置はもとよりこれを許すべきであるが、主文における宣告刑の刑の種類という如き有罪判決としては最も重要な事項につき、その効力を左右するが如き更正乃至は補正的な解釈を許すべきではないと解するのを相当とする。果して然らば、原判決の前記違法は判決に影響を及ぼすことが明白なもので、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、爾余の論旨に対する判断を省略し、刑訴法第三九七条、第三七九条、第四〇〇条本文に則り、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

弁護人広野伸雄の控訴趣意

第一、原判決を査閲するにその主文に「被告人を一年以上一年六月以下に処する」と記載してあるのみでその刑種の記載がないので、右は果して何に処したのか全く知ることを得ない。従つてかゝる主文は判決の体をなすものでなく結局適法な判決があつたと云うを得ない。凡そ判決はその主文が生命であつて法の権威を示すものであるから、夫れ自体理由によつて補正の許さるべき性質のものでないことは論を俟たないところであるから原判決はこの点において破棄を免れぬものと信ぜられる。

第二、被告人は未だ少年であつて、幼時からその家庭境遇は誠に気の毒な状況にあつて今日迄終始不幸のどん底に立ち苦難の道を歩み続け、これがため肉体的にも精神的にも疲れ稍もすれば自暴に陥り易い性格的なゆがみを有しているが然し現在温和な祖母の許にあつて就職し、七十五才の同祖母を扶養しつつあり、且つ深く前非を悔い更生を誓つている(少年調査表原審公判調書供述調書参照)ばかりでなく本件犯罪の態様から見て、未だ自力更生の不可能な程悪性の甚しいものとも認められないので今回限り刑の執行猶予の御詮議をお願いしたい。

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